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105年の大往生。さよなら、ばあちゃん

父の母、私のばあちゃんは御年105歳。100人以上が集まった100歳のお祝いの会では、ステーキをペロリと平らげた恐るべし健啖家である(さすが我が祖母!)。つい先日まで、量は減ったものの、ご飯やイチゴなどしっかり食べていた。そんな頑健なばあちゃんの容態が急変。自力の呼吸と食事が困難になり、何本ものチューブに繋がれる身となった。いわゆる危篤状態である。

風邪で体調の悪い母を残し、父は祖母の元、福島県に飛んだ。今日明日と予断を許さぬ状況に、両親が言った。「葬式通夜に出なくていいから、今のうちにお別れに行っておいで」と。正直に言おう。葬式に行けばイイ…そう思っていた。それほど長く、遠くにいた人であった。

折しもGW中。しかし福島という地が幸いしてか空いていた朝一番の飛行機に乗り、父を追いかけるように私も祖母の元へ飛んだ。急な事で仕事を休む準備もしないままだったが、まぁ何とかなるだろう。

耳元で「ばあちゃん、ばあちゃん!来たよ!」と怒鳴ると、うっすら目を開け何事かつぶやく。混濁した意識の中でも言ってる事はわかるのだとか。放っておくとソーセージのようにむくんでしまう指を、ゆっくりゆっくりマッサージする。時折かすかに握り返してくれる、そんな些細な動きが、手のぬくもりが、愛おしい。パラフィン紙のように薄くなった皮膚の下で、その肉体は確かに滅びつつあるが、ばあちゃん、ばあちゃん、まだ生きてるよね。

大先生と呼ばれた亡き祖父と、若先生と呼ばれた父の兄。父の実家は、もう60年以上この地で病院を営んでいる。幼い頃は大勢の従兄弟たちと一緒に、夏休みのほとんどをココで過ごした。配膳室でオヤツをもらったり、白いタイルが不気味だった手術室をこっそりのぞいたり、大きな病院内は、まんま探索の宝庫だった。しかし叔父ももう歳。外来の規模も縮小して病院の様相もずいぶん変わってしまった。それでも現役の診察室は、昭和の初めが舞台の映画が撮れそうなくらい年期の入った当時の面影をそのまま残している。

叔父夫婦は子供に恵まれず、5人兄妹の中で残った男子が父だった。すなわち実の姓を継ぐのは私たち姉弟2人だけ。大学時代、いつか婿をとって病院を継がないか、と言われた事がある。多感なハタチの娘っ子にそんな話が通じるワケもなく、両親が許すワケもなく(と思いたい…笑)、その話は結局ご破算になったのだが、もしもその通りになっていたら…私の人生、想像できないくらい大きく変わっただろう。
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病棟と直結してる祖母の部屋は、時折看護婦さんが診に来てくれたり、設備もソフトも万全だ。午前の診療を終えた叔父が、床ずれ、褥瘡(じゅくそう)の手当をしにきた。父は見るなと言い、叔父は見ろ、と言う。身体を起こすのを手伝いながら見たが、こんなに酷いものだと思わなかった。痛いな、ばあちゃん、痛いな。人の身体って、こんなになるんだな。

「よくがんばってるよな、実際」治療しながら軽口を叩く叔父に、そんなん言ってエエんかい?と思わず吹き出してしまったが、医療に従事する人は極めて客観的に生死と対峙する。毎日、何年も世話をしてきた叔父だからの一声であり、子としての愛情も、もちろん、ある。もしかしたら、私の気を紛らわせてくれるよう言ったのかもしれない。そんな豪放でメタボ200%の身体を揺らすこの叔父が、私は親族の中で一番好きである。

ばあちゃんのそばを一時も離れない父。今までも毎月10日ほど世話をしに福島まで通っていて、我が父ながらホントにエライと思う。私が同じような事を父に、母にしてあげれるのか…と思うと正直自信がない。ダメじゃん、あたし。帰りが遅い私とはすれ違いの毎日で、8畳ほどの小さな空間で、こんなに長く一緒にいたことも話をした事もない。ばあちゃんを挟み、ちょっぴり居心地が悪くて濃密な時間が父娘の間を流れていく。

夕方。帰阪の時間が迫ってきた。シワが少なく105歳にしては驚くほどキレイなばあちゃんの顔。なぜか黒髪が生えてきた頭皮を通し、頭蓋がゴツゴツ手にあたる。ここに105年分の思い出が詰まってるんだね。スゴイねスゴイね、と生え際を何度もなでる。頬をよせると、あったかくて甘くいい匂いがした。ここに来て初めて涙がこぼれた。

さよなら、ばあちゃん。ほんとにさよなら。
いい孫じゃなかったけど、ちゃんとお話できる時に会いにくればよかったけど、なんかもっと言いたいんだけど、うまく言えないから、さよなら。

私が帰ってから2日後の早朝、ばあちゃんは静かに息をひきとった。

逝く前に逢いに行って本当に本当に本当によかった。
あったかいばあちゃんに会えたから。
あったかいばあちゃんに触れられたから。
きっとすごい人ですごい事になるだろうから、葬式も通夜も行かないよ。
今日1日、3人でゆっくりできたからいいよね、ばあちゃん。
長い間お疲れさま。天国でじいちゃんが待ちくたびれてるよ。
Commented by ARIETE at 2008-05-05 21:48 x
おばあさま、大往生だったんですね。
家族に囲まれての最期は幸せだったでしょう。
あなたも、会いに行ってよかった、って思うひとときを持ててよかったですね。

それにしても、病院長の夫人になってるGIOVAって…
看護婦とかいびってそう?
いや、想像できないです。
Commented by giova21 at 2008-05-08 16:07
返事遅くなってしまってゴメンね〜
うんうん、ありがとぅうね〜
父も親族もみんな、ある意味これでホッとしているでしょう
やっぱ葬儀は大変だったみたい…プログラムあったもん(笑)

>看護婦とかいびってそう?
えぇええ??!そんなんしないさぁ〜〜(ホンマか?)
院長夫人…甘美な響きだわ…
ってそんなに甘くないからね〜あなたも…だからわかるはず(笑)

by giova21 | 2008-04-28 23:16 | 今日のできごと | Comments(2)

ラテンなジョバのお気まま日記♪


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